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荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない』はさらに自由に奇妙な物語を描く。

◆漫画家・岸辺露伴の奇妙すぎる冒険。


岸辺露伴は動かない 2 (ジャンプコミックス)

 『岸辺露伴は動かない』。

 

 みんな大好き天才漫画家の岸辺露伴先生を主役に据えた『ジョジョの奇妙な冒険』番外編シリーズ、二冊目はさらに自由に! 闊達に! そして奇妙に躍動する物語が収録されています。

 

 いずれも素晴らしいクオリティ。

 

 たぶん露伴と同じくらい天才的な漫画家である荒木飛呂彦はここに来てさらにさらに進歩を遂げているようです。

 

 『ジョジョの奇妙な冒険』を100冊以上描いているにもかかわらず「マンネリ」とも「退屈」ともまるで縁がないってどういうことなんだろう。本物の天才ってこういうものなのだろうか。

 

 永野護がいう「クリエイターは50歳を過ぎると物語を創れなくなる」という話もこの希代の物語作家には関係がないかのようです。

 

 何という飛び抜けた発想! そして雄弁な「語り」!

 

 『ジョジョ』第八部『ジョジョリオン』を連載しながら、いわば片手間で描いたとはとても思えないイマジネーションの冒険には震えるばかり。恐ろしい才能もいたものです。

 

 それにしても、この『岸部露伴は動かない』既刊2冊を読んでみてあらためて思うことは、荒木飛呂彦が「スタンド」という概念を飛び越えつつあるということですね。

 

 スタンドとは、おそらくは皆さんご存知の通り、その人の精神が具現化した「守護霊」のような存在で、さまざまな異能を発揮します。

 

 『ジョジョ』は第三部から現在の第八部に至るまで、このスタンドを巧みに使いこなす「スタンド使い」同士の死闘を描いているのですが、『岸辺露伴は動かない』のほうはそれとはちょっと方向性がずれているようなのです。

 

 いや、露伴先生がスタンド使いであることに違いはなく、ほかにもスタンド使いは出て来るのですが、スタンド使い同士の互いにスタンド能力を使ったバトルという形にはならない。

 

 この『岸辺露伴は動かない』のシリーズで「敵」として登場するのは、山の神様だったり不思議な妖怪だったり、あるいは古代のなぞめいた、よくわからない生きものだったりする。

 

 どうもこの世界はスタンド使い以外にも「そういうもの」が存在しているらしいのですね。

◆「スタンド」からさらに逸脱していく物語。


 これにはちょっと驚かされます。

 

 何といっても、荒木飛呂彦といえばスタンドバトルの人。

 

 どんな異常な発想もあくまで「スタンド」という形に収めるタイプの作家だと認識していたからです。

 

 でも、『岸辺露伴は動かない』を読む限り、荒木さん本人は必ずしもスタンドにこだわっているわけではないようですね。

 

 おそらく、べつだんスタンドを使わなくてもどのような形でも物語を創れる人ではあるのでしょう。

 

 ただ、『ジョジョ』というフレームのなかではあえてスタンドというアイディアを逸脱する必要がなかったというだけなのかも。

 

 たしかに、『ジョジョ』でいきなり妖怪とか出てきたら混乱しますものね。スタンドじゃないのかよ、と。

 

 いや、あるいはそのうち『ジョジョ』にも平気で妖怪やら神さまが出て来る話が描かれるかもしれませんが……。

 

 まあ、でも、いまのところ、『ジョジョ』はスタンドバトルの話に終始しているようです。

 

 その意味で、『岸辺露伴は動かない』は、荒木飛呂彦が『ジョジョ』よりもさらに自由にその奔放な想像力を発揮した一作ということもできるかもしれません。

 

 露伴のひねくれたキャラクターも健在です。

 

 そういうわけで、いつものことではありますが、荒木飛呂彦の読者の想像の斜め上を行く才能はこの巻でも見て取れます。

 

 いやあ、凄いよねえ。どんな天才クリエイターでも、歳を取るとやはりどこかで「狂い」や「歪み」が生じて、そのために作品全体が「壊れ」ていくものだけれど、『ジョジョ』や『岸辺露伴は動かない』はいまだに岩のように堅牢に見える。

 

 いったいどんな特異な才能と修練がこのような傑作を生むのだろう。

 

 いや、まったく、今回もオススメです。素晴らしい! ブラボーな一冊なのでした。

 この記事を書いている人:海燕(かいえん)

 

 プロライター。7月30日生まれ。2001年1月1日からウェブサイトをオープン。その後身のブログは1000万PVを記録。その後、ニコニコ動画にて有料ブログ「弱いなら弱いままで。」を開始、数百人の会員を集める。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を見るまでは死ねないと思っている、よくいるアラフォー男子。

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